『世紀の発見』磯崎憲一郎

しかしこの人も異様に書ける人なんだが、なんか印象としてツルンとして引っ掛かりがないんだよな。
子供時代の奇妙な出来事からはじまって、成人してからの海外への派遣生活を淀みなく語っていく。子供時代の昔語りなんかは純文学にありがちな内容だが、海外での派遣生活なんかはすごく良く描けていて、蚊がカーテンにしがみついて動こうとしないとこなどは特にそれを感じる。洗濯物を外に干せないというのも面白かった。
ようするに世界というのはなんと奇妙な出来事にあふれていて、最後には自分に娘がいることの奇跡に収斂していくのだが、ここも説得力がある。なかなか上手い。いやなかなかどころか非常に上手いんじゃなかろうか。
ただ凡人である私には、その収斂で締めておけばという感じがあって、ラストに向けてまた母親の話になってしまうのがピンと来ない。そこでまた話を戻しますか、みたいな。
書くことがないとまでは言わないが、印象として、この作家には技量とセンスはかなりあって、内容が届いていない気がどうしてもしてしまう。美術なんかで非常に上手い絵画作品を見せられるのだが、なんか通り過ぎてしまいそうな、と言ったらよいか。
山下達郎が大昔、音楽でリズム、メロディー、ハーモニーが素晴らしくても、肝心なのはガッツなんだみたいな事を語っていたのを、今なんとなく思い出した。