『波』黒川創

題名からしてすでにストレートだが、あの津波と遭遇した一家のそれぞれについて、多少の工夫はあるものの、そこにあった、また、あるべきだった生活と、遭遇の状況を何の奇をてらうこともなく小説としている。多くのひとがあれだけの出来事なのだからそんなに簡単には言葉に出来ないとか、あるいは出来事の大きさにマクロなことばかりを語りがちななかにあって、却ってこういう小説は書かれにくいだろうと思う。だから、内容自体はふつうの文学の域をでていなくとも、これが書かれたこと自体は文学的な出来事として支持したい。
またふつうの文学としてみても、こうしてひとりひとりを丁寧に想像することは、新聞やテレビや週刊誌には決して出来ない貴重なことである。ここで出てくる被災は、ジャーナリズムではきっと凡庸な被災でしかないのだから。


*****
村田喜代子はいつもどおりさほど面白くも無く、ブライアン・エヴンソンはいつもどおりサスペンスフルで素晴らしい!、くらいしか言うことないので割愛いたしましす。
あちなみに、今までこのブログでは触れてませんでしたが、『夜露死苦現代詩2.0』『批評時空間』については、今後も触れる可能性は殆どありうません。まともに読んでませんので。