『持ち重りする薔薇の花』丸谷才一

さすがに名前だけは知っていたけど、小説作品を読むのは初めて。あるクラシックのカルテットと懇意にしていた財界大物男性が、そのカルテットの過去をメインにそれに絡めて自分の過去を語る、みたいな内容の作品。とくにこれ、語り自体に面白さがあるわけではないし、何しろクラシックだから内容には尚更興味もない。メンバー間の仲がゴタゴタしていても、出てくる作品はすごく良かったりする、なんてのは、ジャズやロックなんかでは腐るほどある話だし。
語りという点では、せっかく聞き手も名前のある登場人物として出したんだから、語っていくなかで忘れていた筈の過去の記憶がボロボロでてきたりとか、以前述べた事と矛盾する点が出てきたりとかして、二人でああじゃないかこうじゃないかしていくうちに過去がつむぎだされていく、とかそういうダイナミズムでもあればまだしも、これじゃ三人称の神視点であるのと大して変わらない。もちろん、ちゃんと整理されている分利点として読みやすくはあるんだけど、過去なんてこんな整理して語れるもんだろうか、と考えると、なんか一昔前の小説だよなあ、と思う。一昔前の小説でも、内容によっちゃ好きなんだけどね。
クラシックの話にしても、財界内部のこととかM&Aの話にしても、読むものの関心を引くような、よほど精通したものではないと語れないようなこと、そう例えば村上龍さんのような奴とか、そういうのがあるわけじゃないし。なんだったんだろうこの小説。