『過去をひろいに』小林紀晴

さんざん恵まれてるくせに「自分探し」に貧しい国に行く、豊かな国の人々を描いた小説。基本的に私にとってはどうでもよい人々なのだが、インド人の現地のツアーマネージャーの不機嫌さを描くことにより、豊かな国の人のその身勝手さが多少なりとも描かれているのはいいと思った。いっぽうで、ほんとうに自分を理解してくれる人に出会った、だの、自分の代わりに死んだだのとかいったおめでたいナルシスティックな言説は、まさしくどうでもよくて、主人公が持ってるだけにウンザリさせられる。
それにしても、この主人公にたいしてやや批判的であったはずの日本人女性が、批判的だったので期待させたものの、最後には主人公になついていき、主人公が股間を膨らませるっていう展開はなんなのか、よく飲み込めない。厳粛だったはずの友人の死にであって直後にこれかよ、というのもあるが、そこでまた厳粛に向き合わされても読者としてはついて行けないのは間違いなく、このラストはラストとしては面白い。ただ、であるにしてもなんとなくの自己肯定に終わってるような気がする。異国における自分探しなんてのは、結局このように何にも向き合わないで済ますことができるものなんだろう。