『虫王』辻原登

こんな小品といえる作品でもこの作家は人をうならせる。描写は簡潔にしてしかし情景の喚起力があり鮮やか、華があるところにはあり、寂れは寂れている。主人公の溜められた鬱屈、それを描かず、意識ではそれがオモテに出ないくらい虫の戦いに熱中するかのようで、目的を遂げて見れば、最後の最後で何もかも台無しにしてしまうかのような仕返しをする。その何の役にも立たないかのような仕返しを遂げたときの台詞が素晴らしい。