『障壁』青木淳悟

例のコンセプトのシリーズである。なんか書ける事がある限りどこまでやっても良いよ、くらいの勢いでファンになってしまったかも。
文体やリズムや世界観で新しい事をやろうとしている作家はけっこう居るし、そういう作家ももちろん応援する私であるが、これまでの小説とは明らかに違う何かをやろうとしているのは、昨今では青木淳悟くらいではないだろうか。
今回は名前がついた登場人物が出てきて、個別的な事柄が多少顔を出すものの、あくまで一般的な人という印象が強く、留学やホームステイをめぐっていかにも色々一般的に生じるであろう事が中心として語られていく。東京での生活をめぐるあれこれを描写した『このあいだ東京でね』と文体はほとんど変わらない。
いわば生活描写小説といっても良いのだが、ルポルタージュや紀行文と異なって、ただ留学やホームステイをめぐる事を並べていくわけではない。今回はとくにその傾向がある。
なんと表現すれば良いのだろうか。明らかに個別の人物を描いているのだが、どこか遠くから、よくある一個の人間として眺めているような、平板化するような客観的な描写で描き、留学やホームステイをめぐる事のより実相に近い下世話なヘンな出来事さえも一般化していくかのようなのだ。
評価しすぎるなら、このスタイル、これはひとつのジャンルとすら言えるのではないか、とも思う。ただ、ちょっとしたおバカな部分がいつもあって(今回は盗み聞きのところなど)、間違いなくジャンルになることなど無いだろう。無いのだけど、後世になってこういう小説が読まれるときの事を考えると、非常に面白い試みであることだけは間違いない。