『現な像』杉本博司

たまに面白い事が書いてあって(古物商でも武器などを扱うとこと美術品中心のところでは交流がないとか)、目を通す程度のこの連載だったが、最終回でちょっと見逃せない記述があった。
冒頭から「戦争とは国際法で公に戦い方のルールが定められている」のは「知る人ぞ少ないが」とか書いていて、ほんとうかよ、大衆気分の言い訳か?と思わせるが、暫くしてそのルールとの関連で、いかにも日本が被害者であるかのような記述があるのは全く許しがたい。
まず正式な宣戦布告が遅れたことの言い訳から始まる。いかにもアメリカの策略によって日本が汚名を着せられたかのような事書いてるけど、何言ってんだろこのひとは。卑怯者と言われたくなけりゃ、ちゃんと相手に最終通告が届いたのを確認するまでハワイ攻撃を遅らせればいいだけの話だろう。しかも当初の目論見では攻撃30分前に通告って、そんなの「事前」でもなんでもないじゃん。相手が準備するのに充分な時間かよそれ。もうすでに卑怯なんですけど。
それ以上に許しがたいのが、ハーグ条約について書いた箇所で、日本各地への大空襲や原爆投下みたいにアメリカは全然守らなかったとか文句言ってるんだけど、この人は重慶爆撃とか、中国各地での毒ガス作戦とか、日本の方がそれよりも遥か以前にさんざん破ってること知らないんだろうか? で、アメリカがその違反について、日本が違反してるのだから我々もなどとはすぐにはならなかった事も。捕虜の扱いの日米の差を見てみれって感じ。どちらが国際法を守ろうとしていたか。
その次には満州建国とインディアン殺戮を並べて論じてるし。十分近代国家が熟成して権利や義務、平等の概念が浸透していた頃の話と、奴隷売買が倫理的にもほとんど問題にされなかった頃の話比べてどうするんだろう。
あと、すでに我々は堪え難きを堪えてきたとか書いてるけど、全くいったい誰の話だといいたくなる。中国韓国にちょっと文句言われて激昂するような国民のどこが堪えてるんだ。戦後政治家たちには謝らせてはきたが、日本国民がひとりひとり頭を下げるようなことなど殆どなかったじゃん。島国のせいで。
連載最後でまったく汚れてしまった。