『耳の上の蝶々』シリン・ネザマフィ

主題そのものは恐ろしく古く、近世的因習VS近代的自我だし、その近代的自我の自己実現が、主人公が淡い思いを寄せる日本人男性にあっさり実現されて、現代的な経済の需給バランスの悪化による歪み・苦しみは殆ど描かれていない。
よって現代文学作品として評価すべき点はあまりないのかもしれないが、なにより中東(イラン)からの留学生が、日本文化とのギャップの大きさに戸惑い、あるいは魅力を感じるところの描写が抜群に面白い。また、インドにペルシャ文化があったりとか、いろんな知識としてなるほどと思わせる箇所も多く、読んで楽しいという意味ではこの作品が一番かな。
それにしてもこの作家はほんとうにネイティブではなく後から日本語学んでこれ書いたのだろうか。私は小説書く人間ではないので少しもアテにはならないが、読む分に関しては、伝わりにくい所も皆無で、むしろ上手いくらいに感じられるのだった。