2012-05-15から1日間の記事一覧

『水の音しかしない』山下澄人

前半のとくに面白くも、かといって読み辛くもない不条理劇を漫然と読んでいると、なんと震災関連でした。人がいなくなって悲しいよという感傷めいたものはなんとなく伝わるが、で何なの?て感じしかしない。 もしかしたらあの日から何かが変わってしまったみ…

『耳の上の蝶々』シリン・ネザマフィ

主題そのものは恐ろしく古く、近世的因習VS近代的自我だし、その近代的自我の自己実現が、主人公が淡い思いを寄せる日本人男性にあっさり実現されて、現代的な経済の需給バランスの悪化による歪み・苦しみは殆ど描かれていない。 よって現代文学作品として…

『裏地を盗まれて』荻世いをら

いままでこの作家にはあまり良いこと書かなかったが、面白さという点では相変わらず足りないものの小説的言語の強度としてはこの号に載った作品のなかではいちばんだろう。そのテンションがラストまでたれることなく強度を保っているのもいい。 独特の言葉遣…

『八月は緑の国』木村紅美

まさかとは思うがこの小説、日ごろから故郷の親とは頻繁に連絡をとったりして、肉親同士の絆は大切にしましょうね、とかそんなことを言いたいわけではないよね、と、聞くまでもなくそんなことはないだろうということを念のため確認したくなるのは、そういう…

『髪魚』鈴木善徳

比べてしまって恐縮だが同時受賞の宿命と思っていただいて、で読み始めて数ページは、あー非リアリズムかあこれは苦痛かも両方面白いってなかなかないよね、で読み終わったあとは、一作目の印象が少しかすむくらい。 なにしろジジイの人魚だ。こんな中途半端…

『きんのじ』馳平啓樹

丁寧に書かれているなあ、というのが最初の数ページの印象で、とくに凝った文章はなく頭に内容がすんなり入ってくる。目立たないように気が配られているのだろう。 主人公は大学を出てはみたものの、良い就職先が見つからず、苦労して(というか、既存社員が…

『文學界』 2011.12 読切作品

先日タクシーと口論になったのですが、思いっきり負けました。(正確には「タクシーと」ではなく「タクシーを運転してたやつと」) むろんちっとも反省していなくて、今でも自分のほうが正しいと思っているし、その日はしばらくのあいだ事務所見つけて文句言…