『ばばぬき』佐藤良成

なんかすごく惜しい小説。上記の作品のような凡庸な内省しかないのなら、話で何とかするしかない。そういういみで読者をひっぱろうとする内容になっていることは積極的に評価したいのだが。
なぜ主人公が霊的現象を恐れるようになったのか、という肝心なところなのだが、これまでにないようなケンカをしてきて、なおかつトランプでババをひいて、かつ後ろの席に乗ったからといって、ここまで追い詰められるようになるものだろうか、と読んでいて不思議に感じたものだ。死んでしまった友人の彼女(妻)を見舞いにいって、レイプしてしまうというのも、そんな事ってあるかなあという思いが先にたって、話に乗れない。いいかえれば、乗ってしまう主人公についていけない。こういう所は、話を作るという評価すべきところが仇になってしまった感じでもある。ラストにかけて、主人公がたんなる良い人になったり、わざわざ夢を解読させてしまうところも興ざめだ。
ただ描写力をけっこう感じられるところもあって、踏み切りで押されて主人公が時間を失うところの描写は説得力を感じた。