『ROMS』松浦寿輝

平岡公威ものの一連の作品のひとつ。わざわざ検索する気もないが不定期でもう足掛け2年くらいになっている?ようは、長く感じてしまうくらい、これまでのものの殆どが記憶の彼方であって、あまり印象に残らないというか、その程度の作品が多かったように思う。
今までで一番面白かったのは、総ガラス張りの塔みたいな家を作ってしまう話だろうか。あれも詳細は忘れたものの、読んでいてなかなか想像が刺激された一編だったように記憶しているが、比べるに今作品は、その長さから言ってもインパクトからいっても小品といった趣。
もともと平岡公威が生きているって所からして非現実なのだから、毎回非リアリズム小説になってしまうのも無理はないのだが(リアリズムっぽくやるとしたら整合性に苦労しそうだし)、その点、今回のように短いと、長ったらしい非リアリズムが苦手な私は助かる。
にしても今回は逆に短すぎやしないか?平岡が、決して悔悛しない老人のクラブ(ROMS)に入り、そのアトラクション的なものとして東京大空襲のような幻想空間が現れ、炎のなか覚悟を決めるという話なのだが、そのイリュージョンの部分が短くて、これじゃ平岡という人間を知らない人は殆ど楽しめないだろう。まあ戦後文学特集をやるくらいの雑誌だから、かの人物が戦後民主主義を激しく憎悪し自分は死んでいれば良かった的なことを言っていたことを知らない人の方が少ないのかもしれないが。
そのクラブの面々のディテールをもう少し膨らませても面白かったかもなどとも思うが、あるいは、三島を大空襲のなかに置いてみるという程度のアイデアであれば、この短さで終わらせるのもひとつの誠実さと言えない事もない。しかしやはり一編の小説にするには、燃料不足かな。