2008-12-21から1日間の記事一覧

『批評の肉体性を聴く』茂木健一郎+白洲信哉

小林秀雄は深い、よく分かってる、という事がひたすら繰り返されるだけ。とくに茂木氏などはもはや信仰告白であって批評意識がまず感じられない。(残りは、ファンでもなければ興味の沸かない私生活における四方山話。) たとえば音楽に関する批評などはなか…

『バイリンガリズム、エクリチュール、自己翻訳――その困難と喜び』ナンシー・ヒューストン

これはやたら感銘を受けた。とくに、文学、というか小説を書くことの目的−世界を大きくする−を明確に力強く述べたところ、そしてそれゆえに文学の多様性の擁護するところに。 また、著者が英語で作品を書いて、それを自分でフランス語に翻訳する作業を強いら…

『麝香猫』遠藤徹

これまた非リアリズム系。この手のものは私の嗜好性には合わないながらも、なんとか読めたのは山崎作品といっしょで描写がしつこくないからなのかもしれない。ただし描かれる内容自体は山崎作品と違って現実から更に遠く、遠いがゆえにこの描写ではやや迫力…

『邂逅』山崎ナオコーラ

私がはじめて読む山崎ナオコーラの非リアリズム小説。非リアリズムとはいえ、極度に現実を離れているわけではなく、いってみればわれわれが普段見る夢をそのまま作品にした、といったら近いだろうか。だから、読んで暫くはいつものリアリズムかと思って読ん…

『あれが久米大通りか』大城立裕

まず主人公を金貸しにしたところが面白い。金貸しといえば、どちらかといえば蔑まれる職業だからである。むろんそういう人物にもわれわれと変わらない日常の顔がある。 そして、いかに日常が急激に短期間で変化してしまったかというのがテーマでもあるので、…

『庭の経験』マリーナ・ヴィシネヴェツカヤ

最初に新興ロシア人云々出てくるので、昨今のロシアならではの話が読めるのかと思いきや、テーマとなっている自然の妙にしても幼子の無邪気さにしても普遍的なものであって、たしかに丁寧に描かれている小説だし、ラストシーンもなかなか良かったが、とくに…

『光の沼』稲葉真弓

都会に住む人間ならではのイナカ礼賛が満載された小説。植物だの小動物だの景色だのと。 ポイントはあくまで都会人から見たというところにあって、決してイナカに定住するような人の視点ではないということ。二箇所に住むことのできるようなごく限られた恵ま…

『青瓢箪』宮崎誉子

結論からいえばいつもの宮崎作品。 誰も言わないが、いや言ってるかもしれないが私は未見なのだけど、この作家は、大江賞を受けた某作家などよりもずっと革新的なことをやろうとしているのだ、と思う。この時代を描く上でふさわしい新しいスタイルを確立しよ…

『すっとこどっこいしょ』舞城王太郎

例によって、とくに深い意味を読み込もうとせずに読む。 こないだの秋葉原の大量殺人と『イキルキス』を関連つけるようなそういうものは書きたくないのだ。 中学三年生男子。進路問題がテーマとして底流にあり、これからの人生をどう選択しようかという大き…

『新潮』 2008.12 読切作品ほか

世の中には、いわゆるギャンブラーというか、物事がどちらに転ぶかに関して嗅覚が特異的に鋭い人々がいるように思います。 博才(バクサイ)があるというより少し広い意味で、勝負勘に優れた人たちが。 大手商社の研究所の人とかいわゆるアナリストとかが、…