『あれが久米大通りか』大城立裕

まず主人公を金貸しにしたところが面白い。金貸しといえば、どちらかといえば蔑まれる職業だからである。むろんそういう人物にもわれわれと変わらない日常の顔がある。
そして、いかに日常が急激に短期間で変化してしまったかというのがテーマでもあるので、登場人物はまだ日常を引きずっていて、極度の極限状態にあるわけではない。たしかに死はすぐ側にあるが、たとえば餓えてるとはいえ、水溜りの水をのみ木の根っこを食うほどでもない。そういう、戦後になって涙ながらに語られるほどでもない人の様を中心に据えたのが私には新鮮だった。それと同行する兵士の上官に対する諦めの早さも面白かった。無茶な命令や戦陣訓にそれこそ命を懸けてしまう人もいれば、こういうふうにやや醒めたような行動をとる人だって、おそらく相当いたと思う。なかなかにリアルである。
ところでこうした題材で小説を書かれると、よほどひどいものでないかぎり私は面白く読めてしまうので注意が必要だ。アパート、コンビニ、妄想というフリーター小説がよほど上手く書かれないとつまらなく感じるのと逆である。まちがいなく死が隣にある世界を描いたこういうものに、ある種の強さがあるのはどうしても否定できない。
ひとつ不満がない訳ではない。未亡人の内面も少し描写されるのだが、これでは少々軽くないだろうか。これならばいっそ全く内面を描写せず外面だけでも良かったように思う。重たすぎる悲嘆に満ちた物語は沢山あるので、基本線はこれでいいと思うだけに。