『震える刺青』海猫沢めろん

今日書いた3作品の中ではいちばん楽しめたが、この作品私にとっては、星野智幸の分類でいうなら、「読み物」だな、と思う。ドヤ街や安売春宿の世界を描いていながら、あまり批評性を感じないのだ。いや、これはこれで基本的には良いのかもしれない。生半可な正義感や同情のもと、誇張されたり過剰な形容をもって描かれるより、淡々と描くという事で浮かび上がる事もあると思われるからだ。
ではなぜ批評性を感じないのかといえば、あまりにキャラクターを作りすぎているからなのかもしれない。やっぱこれでは余りにヤクザをヒロイックに描きすぎだろう。高倉健じゃああるまいし。
風景や境遇が、だからタマタマそこにあるものとして感じられてしまうのだ。別に西成ではなくて黄金町だろうとススキノだろうとバンコクだろうと小説として機能してしまうような。