『手』山崎ナオコーラ

父親への否定感情からかどうか、老年男性とばかり付き合う若い女性の醒めた男性観を綴った話。おじさんの写真ばかり集めたHPまでこさえる。
と書くとエキセントリックな主人公かと思ってしまうが、それは個性という範囲内に収まるもので、山崎ナオコーラの書く主人公の多くは、他の女性作家に多く見られるような変わったタイプではない。全く美人ではないがそこそこ可愛らしさもあって、コミュニケーションも普通に取れる。若い男性とも付き合わないわけではないし、性欲も普通にある。いわば凡庸である。ここに山崎作品のひとつの特徴を私は見る。
この作品では男性に関しての醒め方とそれでいながらデートに興ずる姿が面白い。老年男性とのそれはあくまで遊びでしかないが、同年代の男性といずれ別れるだろうなあと思いつつセックスをするときの描写では、遊びでありながらそうでない部分が匂ってくる。最終的には自分を選ぶことはないだろうなあ、という覚悟をつねに抱えながら男と付き合う主人公いうのは、以前読んだマンダリンクラブの小説に似ている。雑に感じる部分もあるが、かえってそれが、こういうタイプの女性の存在のリアリティを感じさせたりする。彼女の作品にはそんな不思議なところがある。