『ワンス・アポン・ア・タイム』青木淳悟

何作目か正確にはわからないが、もはや青木の主体拡散シリーズとでもいうべき小説。今回のネタはなんと新聞の縮小版で10年前の日本を振り返る。縮小版に載ってる内容からストーリーを組み立てるわけではなくて、あくまで縮小版を見た感想みたいなものである。特定の叙述の順番があるわけでもなく、見たとき発想したことを自由に書き連ねて行くのだが、途中で挿入される記事の感想の、その無個性ぶりがなんとも面白い。普通新聞記事を読めばもっと個人的な感想−怒りにしろ悲しみにしろ−の色が出てきてもおかしくないのだが、奇妙に脱色されているのだ。
そしてこれ、とくに距離感があって第三者的とかそういう事でもない気がするのだ。あくまでこの社会に暮らしている人の声なのだがしかし誰でもない感じ。匿名者ではなく一般者としか言いようのない不思議な感じがする。
なんとも評し辛く、これこそ評するより読んでもらいたい。しかし店頭にもう無いしバックナンバー販売もしていないっぽかったりなので、私もあまりサボらず良いものは早めにこのブログに書いていこうかなどとも思ったり。