『ガルラレーシブへ』谷崎由衣

やっぱこの人はうまい。相変わらず情景の喚起力があり、またその情景そのものも魅力的なのである。以前からそれは認めざるを得なかったのだけど、内容そのものがいかにも純文学的なアンリアルワールドで、積極的に読もうという気にさせる作家ではなかった。
今回は、主人公の内面や、その過去に関しては変わり映えしないものの、ある男の登場人物の過去の出来事(男同士の愛憎劇)が面白かったので評価アップ。ヤスノもその上司もなかなか魅力のなる人物だ。描かれた行動範囲だけでなく、小説そのものもやや外へ向かった感じがした。他にも、夜行列車での中国人女性との交流の様子や、ホテルでの先着日本人の有様の描写も良かったし、主人公の内面として、周りの言葉が分からないので却って書く気が無くなった、などという所など、そういう体験など自分は持って居ないのに、説得力があり、読んでいてハっとさせられもした。
ただ、欲をいえば、「わけも分からず言ってしまっていた」という場面が多いのが少し気になった。やはりこれは、あまりに文学的。アンリアルワールドとしてはそれは成立してしまうのだろうけど、やはりもっと自我って強いものなんじゃないか、と。つい何かを口にしてしまうような事があったのなら、むしろ暫くはそのようにしないように「心ならずも」振舞ってしまうのではないか、と。人間って。
そのリアルに、もう少し近くても良いんじゃないかと思う。