『赤い傘』花巻かおり

ブコメという懐かしい言葉を思い浮かべてしまうような平板な家族の描写を主として、欠点は多数あるだろうが、私が思う大きな欠点はふたつ。
せっかく題名にまでした赤=抵抗というテーマがどこかへ飛んでしまっている事。主人公は日々にしっかり埋没して上手くやっている。そんな雰囲気しか伝わってこない。だって家族に自分の恋愛感情など報告したりもするのだ。
もうひとつ。主人公の無邪気な子供めいた行動と、ある種の内省がかけ離れすぎている。友達の弟の小学生の気持ちをあれほど深く測れるのは勉強のできない女子中学生としてリアリティを欠く。
これは姉も同じ。姉の行動がまた子供じみ過ぎていて、彼女はこの物語のなかでいちばん深みと謎を持たせるべきところなのではないか。それが無い。
評価できるのは、幼い主人公なりにフィリピン人に何かを感じさせようとしていること。赤いバッグに象徴させているその内容じたいは平板な認識でしかないが、それは欲をかき過ぎかもしれない。とりあえず、こういう階級的要素を小説内に持ち込むのは評価したい。