『ジュ・トゥ・ヴ』三輪太郎

危篤状態にある父の心拍数の乱れを罫線にしてしまうというバカらしい行為が行われているのがまず良い。
敬語で誰かに話しかけるような語り口のもと物語は進むんだけど、この語り口が良いのだ。このせいで、冷静にみればバカらしい事の、そのバカらしさを見えなくなっていて、かつ、その裏に潜む葛藤とか激情をも隠している。
すべてが「自己外化」じみているのだ。一番やりたくない事をやる。激しく語るべきところを冷静に語る。
それに、この自己外化はもともと鬱から自分を救うためだったわけだから、病気治療に伴うひたむきさが出ていてもおかしくないのに、この語りのせいでそれも無く、またそれは進んで結果として、もう治癒できているのに続けてるんじゃないの?的な虚無までをも浮かび上がる。
最後まで貫徹して、経済の出前授業という外化をしているというオチも良かったし、途中で行われる相場というものに関する解説もなかなか適切だ。もし実際に相場に取り組んだことがなくてここまで書けたのならすごい。