『深海』丸岡大介

阿部和重を余り知らない私は、今作を読んでも、ついこのユーモアに青木淳悟を思い浮かべてしまう。前半で丹念にそれがテーマでもあるかのように、倦怠な中年夫婦が旅行したときの、しっくり行かないというか仲の悪い様を描きつつ、一転視点を変え、その夫婦から財布を掏った人間の視点へと移る。
夫婦の行動を追った部分が、従来からの古臭い小説だとすれば、掏りを働く人間が出た時点で、古臭い小説に対する批評的立場が出てくるのだ。批評的立場というか、なんか小ばかにした感じが青木っぽいのです。