『歌うクジラ』村上龍

最初の頃は休載もあり、読んでいて少し退屈だったこの作品だが、中盤以降は、社会とは何か人間とは何かを考えさせるような事象が次々登場し、中々面白かった。村上龍は経済関係の著作とかも出したり、TVにも出ていたりするが、問題意識が普通の作家とは全く違うところにある割と稀有な作家なんじゃないだろうか。
今作でも、ストーリーそのものは何か派手などんでんがえしがあったりというものではないし、主人公も途中で別れた仲間と出会うわけでもないのだが、ストーリーそのもので読ませるのではなく、その背景として語られるものの「情報」の面白さで読ませる。なぜまた人々がふたたび合理的に階級化したのか、とか、社会化とは無縁ではない性欲とはいったい何か、とか。現実には役に立たないけれどもその分刺激的な社会学的読み物を読んだような、とでも言えばいいのか。
他の村上作品をよく知らないので比べようがないのだが、単行本化されたとしてそれ買って、面白いかどうかは別として、まず「損」はしないんじゃないかな。