『うちに帰ろう』広小路尚祈

主夫もの。ただし背景には、昨今の失業問題が影を落としていて、ジョンレノンが育児をしているころの、ひとつの選択肢としての主夫というのとは違う。かつて主夫というとき、そこにはもともと男女のあり方を疑うラジカリズムがあったのだが、今思うと、なんとも余裕があるというか呑気なものだったという気もしてしまう。
主夫を描くという事に典型的に現れているが、この作家の作品は、主人公の境遇が昨今の経済状況をヴィヴィッドに反映しているものが多く、となると、次書くのは脱サラ飲食業の失敗談かな、とかイジワル言ってみたくもなるが、そういえば脱サラもかつてとは全くイメージが違っているなあ。でも、人によっては時代に添い過ぎという人もいるかもだが、私はこの作家の姿勢は決して悪くないと思いたい。というのは、主人公がたいてい皆、実際以上に暗くはなく、どちらかというと楽天的な人物が多く、そういう意味で、この経済状況に関わる主体性や批評性を感じるからだ。
とはいえ、調理に関するいかにも男っぽい拘りとか読ませられると、やりすぎというか、嫌な感じは漂う。これは普段から私が個人的に、料理に関する男っぽい拘りが嫌いだからなのかもしれないが。しかし、こういうところにも、昨今の主夫というのが、男女の役割を捉えなおすという機制とは無縁であることがよく出ている。男らしさはあまり疑われてはいないのだ。
面白かったところを挙げると、主人公の意識とその妻の異様なまでの冷たさとの落差が面白い。また、同じ子を持つ親同士の会話のなかには、子供を不幸なものとして語ってはいけない暗黙のルールがあるといった分析も、なるほどと思わせた。