『人生ゲーム』綿矢りさ

同級生3人が子供の頃に遊んだ人生ゲームの悪い目の結果が大人になってことごとく実現してしまう。で、その人生ゲームに手を加えた人物がいたことを思い出し、彼の消息を知ろうとする・・・・・・。といったあからさまに作り話的な非リアリズム小説なんだが、感動した。
人生ゲームの謎ということでうまく読者を引っ張りつつそこでも起承転結をつけ、なお、テーマとしてはここでも「(こころを)ひらく」というのが変奏されている。また、人が変わるということ、逆に変わらないということ、それぞれが実存として幸せに結びつきうること、あるいは過去と現在との2つの恋愛関係の固有性=比べようのなさなどの要素も含みつつ。
主人公は、人生の最後に近くなって、いままで誰にも語ったことがない、それまでの人生のその全てに近い内容を語る(=ひらく)相手を見つける。誰かに語るということはただ自問自答するのとは全く違う行為なんだと思う。主人公はサラリーマンで、そんなに起伏のある人生でもなく、しかも子供も作らず、孫もいない。そんな人生でも、ただ語りうるというだけで、ひとつの実存の肯定にいたる。聞き役となった人間はただ聞き手になるというだけで、一切他の手助けはしない。聞いてあげることで、それで充分すぎるほどに充分だからだ。
ここにはもうひとつ、ひとりきりで生きていくことの困難さとその乗り越えというテーマが顔をだしている。綿矢りさ、さすがである。