『アメリカ』磯崎憲一郎

アメリカということで、前半は仕事でアメリカへいったときのことを中心として語られて、これまでの磯崎作品の延長というか、これだけでも面白いのだが(とくに裏通りで男に腕をつかまれたときのその力の描写とか)、後半の、ベンチャービジネスがもてはやされていた頃の、新しいアイデアを投資家に売り込むIT業界の(周辺の)男の話が抜群に面白い。ある投資家に自分の画期的な新しいビジネスについて話をして、興味を持ってもらえたふうなのに、その男はふたたびその男と結局は会うことなく終わる。そのわけは一切語られず、物語は跳躍し、その男の失踪後に移っていくのだが、わけが語られないのになぜかそれを受け止められるのだ。