『クエーサーと13番目の柱』阿部和重

こんかいで最終回。おなじく「群像」連載だった『ピストルズ』が、面白かったものの今ひとつ乗れない気分も残ったものだった私にとって今作は、隅から隅まで面白かったといってもいい。
阿部らしい虚無的な主人公が多数出てきて、あるアイドルグループの活動をめぐって、リアル空間のみならずネットなども当然駆使した情報争奪戦が行われる、ってのがおおまかなこの小説でおこる出来事なのだが、さいきん「新潮」に掲載されたビンラディン殺害作戦(のシミュレーション)を描いた作品に感触が近く、これらにみられる現代的なハイテクな事象、つまり主にネットを駆使したリサーチ能力が作品の出来に大いに影響するような事象が数多く出てくる、近未来というよりは並行宇宙に近いくらいごくごく直近の未来の世界を描いた作品は、この作家にじつにマッチしていると思う。もちろん、2ちゃんもニコ動もミクもフェイスブックも知らない人だって楽しめないという事はないし、せめてスマートフォンツイッター程度の知識はないととも言うつもりもさらさらないが、でも精通している人ならより楽しめるだろうなあとは思う。
連載2回目後半から最終回にかけて起こる出来事、アイドルグループの情報収集で派手に出し抜かれて、しかもその敵対するグループに復讐までされ、さらにその後、忌み嫌っていた引き寄せの法則を実現してしまうのか?への展開はじつにスリリングだったっす。(阿部氏が過去に映画関係の学校にいたのを榎本俊二のせいで知ったのだが、映画的なところも確かにあるが、もうこのレベルで書けるなら映像なんて必要あるまい。)
じっさいに存在する「引き寄せの法則」がこの小説を貫くもうひとつの柱となっているのも面白くかつおおいに注目される点だが、忘れられないところでもうひとつ特筆すべきなのは、この小説に出てくるアイドルグループのコンセプトがよく考えられていて、いかにも「手の届くような近未来」として魅力的ななものとなっていることだ。こういうところは、ある年代以下のものにはとくにヒットするだろう。
(ちなみにこの感想書くために群像のサイトに行ったのだが、単行本が出るようだ。たぶん群像3冊そろえるよりは安いだろう。)