『目の中の水』瀬川深

殆どの小説家が直接描かないのに、このあからさまに震災関連な感じはなかなか勇気がいるだろうなあ、と思いそれは評価するものの、題材の表面的なこととは裏腹に読んで感じるものは少ない。
小説の小説的な部分、というか文芸的な部分、あるいは技巧といえばいいか、そういうものをいったん廃棄して、それこそ医者の日常をそのまんま小谷野さんみたいな私小説で書いてくれたほうがよほど私はそれを読みたいのだが、きっと本人は「小説」を書きたいのだからと、それを嫌に思うだろう。小説を書きたいのか、小説を書きたいと同時にただそれだけでなく何かそれだけにおさまらないものまで書いてしまうのか、の差を思う。