すばる文学賞受賞作『黄金の庭』

この世ならぬ妖怪的なというか霊的なというかそういう存在が出てきて、非リアリズム小説なのだが、その存在については、いかにも意味ありげだがたんに思わせぶりな存在という以上のものは全く感じず、私には、小説全体があまりに意味のないものなので意味ありげなものを登場させてみました的にしか感じない。別なところでも書いた覚えがあるが、こういう作品を読むと、(小説を書きたい)以上の何かを感じさせてくれ、と思う。
それに、この世ならぬあり得ない存在をポコっと無造作に出す割りには、商店街の仲間たちみたいな、昭和の時代にしかないありえない世界が無検討無批判に小説の舞台とされているのも感心しない。そこがまず先決ではないのか。メロディー通りに吹けないうちにアドリブやろうとしてはいけない、みたいな。のどかな商店街なんてどっこにもありません。
またこれを言うと厳しい言い方になるが、主人公の内面にきちっとした筋が通ってないようにも思える。ここでのんびり過ごしますみたいな描写から何の脈絡もなく妊娠に関するシリアスな話が出てきて驚かされ、あれっと前の方を読み返したりさせられた。つまりは技術的な難があるように思え、これに曖昧な「魅力がある」みたいな基準で賞を与えるのはどうなんだろうか。