『東京五輪』松波太郎

いま発表されれば最高のタイミングなんだろうけれどな。たんに題名的には。
現代の主婦が主人公となっているが、その主婦がある日知ってしまった逸話の主人公である、マラソンランナーの円谷幸吉が隠れた主人公とも言え、いきなり頂点にたってしまい下るしかなかった人物のその有様が、現代の下るしかない国=日本に重ねられているようにも取れる。
でその主婦の日常といえば円谷と同じように体に根本的な歪みを抱えていると思い込んでしまったがゆえに、夫や子供に心配されながらも歩くこともままならないというシリアスなものなのだが、この作家が書くと独特の風合いがあって、読者にはステロタイプな物語にはない届き方をする。絶賛するほどでもないがエキセントリック気取りや芸術臭もないわりに独特の度合いが高い事は支持できる一点であることは間違いない。