『埋み火』木村友祐

経営者的立場にある主人公が、同郷の知りあいと再会し、酒の席でその男の話を聞く。とくだんこれといった仕掛けもないようなリアリズム小説。敢えて言うなら、その男のリアルな訛り混じりの語り口が特徴か。こういうのは以前のこの作家の作品でもみられたように覚えているが、確実に一定の効果はあげている。が、それ以上に、その男の昔話が、主人公にとって驚くべきものに徐々に変わっていくのが、今回はスリリングで面白く、力ある作家だなあと思わせた。安穏としていたはずの自分の人生にじつは真っ黒な過去が横たわっていた・・・・・・。
このひとは、どの作品も、下から目線というか、田舎による都会批判、労働者による使用者批判という左翼的な基本線で書かれてはいるものの、けっしてその線をもとに単純化して断罪して終わるというようなことはやっていないのがいいところ。自己をも批判することをけっして忘れていないのだ。