『人間性の宝石 茂林健二郎』木下古栗

冒頭から無茶苦茶な理屈で自分をコントロールしようとする人物が出てくるのだが、木下氏、さいきんかなりマジな気がするのは私だけだろうか。それとも、最近やっとこさ晴れて国会議員のバッジをつけることが出来たれいの和民の創業者に関する木下氏の厳しいエッセイを読んだせいで、それと私が結びつけたくなっているだけか。
いっけんいつものドタバタ劇にみえて、ここでいじられるのはOLでありあの脳科学者であり、めずらしく前の作品と対象が連続していることを考えると私の思いも全く的外れとも思えないのだが。
少しドキュメンタリーふうな今回の作風だが、たとえばNHKやなんかでスガシカオかなんかの歌が流れるドキュメンタリーを思い出したりもする。ワタミだけではない。堂々とした一流企業でさえ、追い出し部屋みたいなものが存在するような世界において、たった一握りの成功者を誰もがちょっとしたことで成れるような明るい物語に仕立て上げ、それががゴールデンタイムに流れているこの醜悪さ。まったく何がサラメシだ!(これは別の番組だけど)メシなんて働く者にとっておおよそエサでしかなく、一日のうちで昼飯が何より楽しみとかいう事なんて、バカみたいに悲しい事なのに。おっと私も怒りが。
従来から紋切り型の物言いが流通する世界にたいして異を唱えるのが小説家の定めみたいなものだったが、それに異を唱える事がむなしくなるくらい定着してしまい、それに、美しかったり練りに練った言葉で異を唱えるのが結局無力だったりして、また、ワタミ社長の「自殺した彼女を想い学校を」みたいな紋切り型を超越した物言いがなされているとすれば、木下氏のような無茶苦茶さで対抗せざるを得ないのではないか。そんなこともふと思ったりする。アベみたいな歴史修正主義者がニコニコと明るい未来を語るような世界にどうやって対抗したらいいのか。