『田園』広小路尚祈

それなりの作風をしっかり持ちつつ、コンスタントに作品発表しているのを、まずはすごいと思う。深刻と思える状況でもけして重さにはまり込まない人物たちを描いて来たのだが、そのこと自体この時代に対する作者の抵抗というかひとつの持つべきスタンスを表しているようにも思えるが、今作は明らかにバカだなあと笑える場面を描くことでバランスをとったように見えるが、じつはいつもよりシリアス。いわゆる切られた契約社員が転落していく様を描いているのだが、題材が題材だけにこうなってしまったのか。あとこれは敢えて言えば程度のことなので、批判というのではないが、切られた契約社員が社員寮にもいられずにみたいなのは、あまりに時代状況にジャストすぎやしないか。たしかに、いちど身分を失ってしまうと肉親とかそういうところのつながり絶った人間は場合によっては預金すら下ろせずどうしようもないところまで落ちてしまう所などは少しわが身を省みさせる所があったが、欲をいえば、もっと深くとは言わない。ただ、もっと「それぞれ」を見たいのだ。