『WANTED!! かい人21面相』赤染晶子

典型的な芥川賞受賞第一作。芥川賞受賞を是とする人は安心して読める作品。しかし、悪く言えば二番煎じ、か。
女の子と教師が学校で繰り広げるドタバタ劇であって、芥川賞作品より年齢層が下がっているだけ、ともいえる。ただ、恥ずかしながら前作の評をあちこちで目にして気付いたことだが、たしかに漫画的感性を育てた世代には合致するところがあって、そういう意味での独自性はある。今作は前作よりもあちこちで面白い文章や場面が多いように感じて、楽しく読める部分もあって評価もオモロないにしなかったのだが、このへんは個人的な好みの問題かもしれない。
はっきりいって今回もテーマ的な柱の部分は心に響いてこない。というか、よく分からない。まず表題にもなっている「かい人21面相」が主人公にとっての他者だ、というのがピンとこない。京都のとある町=小さな共同体で育った主人公にとって外部を象徴する存在だというなら、なんとなく分かる。しかし「他者」と表現するなら、主人公にとっての他者とは、髪型を変えてきたときの、もう一人の主要な登場人物である女友達こそ、ではないか。べつにこれは、「他者」というのは小説内の主人公に言わせている言葉だから良い、というものでもないだろう。また、「かい人21面相」に似ている部活の顧問教師にしても、最後まで他者性を露にせず、主人公達にとって手玉に取るような存在でしかない。
あと、主人公の女友達が、「かい人21面相」を見たか見ていないか、という過去に記憶に関わることに関して嘘を言ったりするところ。これは、この女友達が弟が自分と一緒だったときに行方不明になっていて、その事とどうやら関連しているらしいのだが、わたしの読解力不足なのか、感性が乏しいというのか、この行動もよく分からない。その分からなさこそ、他者性だろう、ということでもないだろう。むしろ、このへんにいくらか読者が共感というか合理性を感じなければ、小説としてどうかという話になってしまわないか。つまりは、弟をそのようにして失うということがどういうことなのか、が最後まであまり響いてこないのだ。身近にそんな人間がいるひとなど殆どいないのであって、経験がない人に経験させてしまうという小説的マジックがない。
総じていうなら、楽しく読める部分もありひどい小説では決して無いのだが、作者のテーマの消化に、読者の消化がついていきにくい。そんな印象をもった。