『距離、必需品』岡田利規

ダンサーとして世界中のあちこちで公演をしている「彼」が日本へ帰ってきて、その妻である「わたし」と過ごす一日みたいな内容で、とりあえずその内容には、とりたてて深い内省があるわけでもなく、みるべきものは何もない。この「わたし」の考えている内容なんかはむしろ意識してつまらないものにしているかと思えるくらいだ。
特徴といえば、視点が定まっていないことで、最初は「わたし」による一人称視点だったものが、わたしが眠ってしまったあとも語りを続ける。「わたし」が幽体離脱したような俯瞰視点になっているのだ。ちょっと妙な感じはたしかにする。普通の「わたし」が主人公の小説が、作者は充分わかりきっているのに、あえて一人称視点に閉じ込めている事を考えると試みとしては面白いかもしれないが、普通の小説は作者がべつにズルいわけでもなくあえて一人称に閉じ込めることに意義があるわけで、妙な感じがするという事以上のものは感じれらない。
で、これだけならまだしも、中盤あたりから彼が「彼」のまま一人称語りをしだすのだが、もちろんそれは「わたし」は把握しているわけでもなく、これをやる意義はよく分からない。
なんか外部から小説をいろいろもてあそんでるって感じなんだよね。付き合う気が無い。