『犬と鴉』田中慎弥

読みながら幾度睡魔に襲われたことだろう。あちこちで評価が高い作者であるが、その面白さは私では分からないもののようだ。相変わらず腑に落ちない感情描写もある。
なぜ眠くなるかと考えると、まずは、その出来事の少なさと、思弁の多さ。こういうのはやはり苦手。そして思弁じたいにとくに面白さが感じられるわけでもない。
とくに面白くはないのに、悲しみだの空腹だのについて幾度も語られ、我慢して懸命に読みついできて、主人公はそれに則って色々行動しているからすんなり行くかと思えば、後半近くになって突如として、自分は空腹なんだろうか、そもそも悲しみで空腹を満たされるんだろうか、とやりだしたときには流石に呆れて読むのをやめようかと考えた。この期に及んで今さらそれかよ、と。
また小説自体の評価とはべつに、悲しみを味わうために戦争をする、とかそういうのは余りに文学的逆説という感じがして好きになれない。たしかに、戦後死ねなかった復員者が鬱屈した思いに囚われたという事はあったのだが、べつにそれは幸せが退屈だからでもなんでもない。幸せは幸せなのだ。ただ、どうしてあのとき弾が自分ではなく友人を貫いたかについて考えても考えても理由がそこに無いことの不条理にやられてしまう場合がある。理由がそこにないから悔いたくてもできない。それは幸せを否定するとか悲しみたいとかそういうのとは違うだろう。弾が自分をそれた理由と同様、幸せを否定する理由もまたないのだから。
話を戻すが、父親が塹壕のうえに来てからラストまでは迫力がある。