『ignis』川上弘美

小さい犬が光っている。何なのか全く分からないが、その異化作用がこの作品の全てだろう。さも意味ありげな、しかし良く分からないことを書いて、読者の解釈にまかせる、そんな純文学にありがちな作品。どうしてこの青木という男と付き合い続けているのかも、私には漠としていて分からない。青木という男を俗っぽく書いているように見えて、じつは自らは関わらない、たんなる偶像となっている感じが強い。昔男がいた、で始まる語り口だけではなく、内容までもが大人向けの絵本みたいなものか。
ただその語り口に工夫があり、ときにユーモラスで楽しめた。作品として最後まで読ませる工夫として効いている。