『信号』間宮緑

けっこう凝った文体が時折みられ、私にとっては藤沢周の文章などより、読んでいて、ああこういう表現の仕方も可能なのか、と思わせたりもした。
ただ内容そのものは少し退屈。ここでも自己と他者の問題が出てくるのだが、まだ自己の内から出ていない段階。というのは、この旅行者の存在が信号を送る男の分身のようにしか感じられず、その忠告もたんに内なる声が具現化しただけのようだからだ。もちろんその段階をしっかり見極めることも大切で、この作品はそもそもそれを中心に描いただけと言われればそれまでなのだが。