『残り足』玄侑宗久

ずっと義足だった父の健常者への鬱屈とか、その父への一人息子の鬱屈はあまりこちらに伝わってこない。なぜこの二人は主人公が若いときのみならず、そんなに対立することになったのか。舅としての父と嫁との水道をめぐる対立とか原因めいたものは書かれているが、この作品も小説としてより人間臭く面白いであろうそういう部分があっさりしているので伝わってこないのだ。耐えられず家をでるとき父親はどんな様子だったのか、とか。
ひとつ面白いな、とい思ったのは、認知症対応のクスリを処方されておきながら、ほんとうに母親がボケているのかそうでないのかが主人公にも分からなくなるといった、人間の行動の分からなさが書かれていること。