『五月晴朗』原田康子

末期ガンの夫との最後の何ヶ月かを、作家を職業とする妻の視点から描いた話。抜群に読みやすい。掘り下げた心理描写や凝った比喩表現を省いたものとなっているが、心境とか感情が老年にさしかかってより単純化していくものだとすれば、これがかえって自然だろう。
後半の方で、最後の夫婦での外食をこれが最後だと分からなかったからこそ楽しめるものとなった、というのがあるが、それはそうだろうな、と思う。死んだ人と最後に何をしたか。なんだかんだいって、この事に左右されてしまうものは大きいのだ。
「いのち」というテーマだと、ベタではあるがこういう作品はやはり強いなあと思う。とくに、病院を転転としたりとか、色んなタイプの医師がいたりする所など、非常によく耳にするパターンの話ではありながら、身近でいろいろ経験していることもあって、つい読み進めてしまうのであった。