『夢の栓』青来有一

引きこもりの男性が、祖父が先の戦争で祭祀の長となってしまった未開民族の人に祭礼品を返して欲しいと言われる話。戦争末期に近づいてくると地域によっては全く把握不能なくらい日本軍は瓦解していたと思われるので、ありそうでもあり、でもちょっと無さそうな・・・。
それでも話作りが上手く、そこそこ整合性が取れているせいか、リアリティ不足はあまり気にならない。「夢」というのは、戦後安寧に幸せに暮らしたいと言う日本人の夢の事のようである。で、もうその夢は十分実現しただろう、と。もう夢を求めすぎて夢で溢れてしまって日本は沈みかかっているのではないか、と。テーマとしてはかなり大きいテーマである。
気になるところは、引きこもりの人が主人公となっているところ。たしかにそういう設定にしてしまえば、今の日本に懐疑的になるのは易い相談で、小説としては成り立ちやすい。ただ、夢の外部になってしまった人に、夢を批判させるのは容易いのであって、できれば、まだその夢の最中に居ざるを得ない人、また、その夢からの逃れがたさ、にまで射程があったならなあ、と思う。