『事態は悪化する』中原昌也

途中から、昨年の『新潮』に載った筒井康隆の小説のように、同じような出来事が微妙に少しづつ変化しながら反復される内容。筒井氏は自分の作品発表時に、中原氏も自分と同じような事を構想していたとどこかで書いていた記憶があるので、中原昌也のスタイルの一つなのだろうか。
そういう意味もあるのか、中原昌也の小説としては構成が比較的カッチリしており、どこへ話が流れていくのか分からないという、私が感じる中原氏の魅力からは少し遠いかもしれない。
それにしても、一所懸命しゃべっているのだが何言ってるのか分からない、そんな、それに似たような人は確かにいて、小説自体のラストはちょっと極端なまとめ方だったが、途中のそういう人とそういう人への対応のしづらさの描写は非常にリアリティがあった。彼の中では訳のわからない言葉が意味としてしっかり機能していて、従って意志もしっかりしているのだという様子。そういう様子の前で我々は、それを無下にしてしまうような態度はなかなか取りにくいものだ。とくに悲しくなったり同情的になったりするわけでもないのだが。