『鍵のない教室』福澤徹三

完全リアリズム。一人の中年専門学校教師がリストラされるまでを描いた作品で、技巧的な工夫は殆どない。が、読ませる。専門学校の内幕を暴いたその内容だけでも一読の価値はあるだろう。こういう話を、たんに、社会学的な問題としてノンフィクションで書いてしまうと面白さが半減してしまうであろうと想像するが、つまりは、やはり文学というものには相当の力があるという事なのだろう。
専門学校の業務の実情として読みどころは沢山ある。願書の数が減少しているところやその対策としての体験入学の随時実施の逆効果、担任として退校対策に明け暮れる日々など、実際に体験していないのに十分ありえる事として、身につまされる。そして生徒の数が減れば、先生も当然減らされ、その理由が技能的なものではなく人的な繋がりが重視されるのも、多くの中小企業と変わらない。
また、妻や娘の夫に対する関心も、リアルだ。次の仕事を尋ねるばかりの妻も、口調は遠慮がちで悪い人間ではない。明白な敵がいないというのは、また救いようがない、という事でもある。
しかし、最後になって、学校側の自分を首にした人にさえ、敵を見出せなくなる主人公であるが、ある象徴的な行動により少し晴れ間が広がったりする。この気持ちは個人的にはよく分かったりする。ほんとにちょっとした事なのに、なぜあれだけ執着していたのか。