『快適な生活』松井周

前作がそこそこ面白かったような記憶で読み始めたが、女装という、たしかに扱っている世界は面白い。しかし、この自棄的な虚無感にいたる過程の説得力が少し弱い気がする。それとその自棄が中途半端でもある。もっと自分を捨てるなら、こんな女装なんかしたって、と更に一段ラストへ向かって自棄的にどこかでなると思うのだがそれは無いし、無いならば、女装の実行へ至る前段階でもっと逡巡があるのではないだろうか。
しかしもしかしたら、ここで描かれている虚無は、私が普通と考える行動よりも逸脱するほど深い、そんなところへ行ってしまっているのかもしれない。そういう空気は感じなくもない。書くことが半ば無意識に自然とそのまま空虚とならざるを得ないような、そういったメタ小説的なリアルさはある。
ただせっかくサラリーマンを主人公にしながら、アウトサイダー以外の何者でもないだよなあ。サラリーマンであることの何かが出ていない。