『元競馬場』青山真治

東京競馬場が昔は府中ではなく目黒にあったというのは有名だが(いや特にユーミンとか競馬ファンでなければ府中にあることもしらないのかもしれないが)その跡が住宅地になっていて、そこを散歩したりする話。
と思いきや、どうも中心は、青山が昔自分の作品がイマイチとおそらく『群像』の鼎談で評価された事に対する当てこすりというか、抗議というか、とにかくその際の腹立ちを綴ったところが突出している。(「キャメラ」という言葉に関してのやり取りがあった事など私にもうっすら記憶に残っていたので、過去の『群像』にあたろうかと思ったけど途中で面倒になって止めた。)
結局このことを書きたいがための元競馬場の話なのか、というくらい残りの情景話は印象に薄い。それは主人公と妻とせいぜいタクシー運転手くらいしか登場せず、リアルタイムではただその元競馬場のあたりを散歩するだけだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
ただ、全然こういうのもあっていいと思う。不当な評価に対して押し黙るのではなく、しかもちょっとした文学作品を作りそれに紛れ込ませる事でそれに対して抗議するなんてなかなかのガッツである。ただ主人公の内心に仮託してストレートに語らせるというのは、ちょっと芸として足らなかったというか、作品自体面白くはないし、読む前にこういう内容だと分かっていれば読まなかったと思うけれども。まあつまりはそれくらいムカムカしたのだろう。怒りは十分伝わるものがある。