『男と点と線』山崎ナオコーラ

普通でない男と女のあり方に焦がれるという意味で、『スカートのすそを〜』にテーマが通低していて、ああなるほど山崎さんの最近の関心はそれなのねとは思ったが、あの作品ほど描けてはいない。
ここまで単純にして無垢な中年男性というのはちょっと無理があるだろう。むろん、中年男性をこんなふうに、世界の何もかもが祝福しているかのように感じる恋をした中学生みたいな無垢な人間として描いた、という面白さはあるのかもしれないが。しかしそうだとしてもそれはただそれだけであって、そういう小説的面白さだけで、満足してしまえるような人間では私はない。
中年とは何がしかのとりかえしのつかなさをもって中年となる。
「もう結婚はしないよ」と即座に言い切った相手の女性にはそれがあり、この小説はあそこがあるだけ少しマシにはなっている。