『ボリビアのオキナワ生まれ』木村紅美

一組の夫婦が、むかし男性がよく訪れていた民族料理店に行く話が回想シーンと共に描かれる。男性の側から描いているのだが、この妻のいかにも女性らしい嫌味のある聡明さと、その聡明さのまえで、青春時代に深く付き合った思い出をなんとか隠そうとする様子が上手く描かれている。
こういう作品と、たとえば青山七恵作品との差が、正直私には分からない。べつに木村紅美を高評価するわけでなく、たんに青山七恵が私にはぴんと来ない事が多いだけだが、一定水準をクリアしている小説だと思う。鶴見に沖縄から移住した人が多いという事など、あああそこは大きい禅寺以外ほとんど何もない第一京浜通過地点ってだけじゃなかったんだなあ、という面白い事実も知ることができた。
ただし、主人公が複雑な思いを抱いているもう一人の女性については、その扱いがすこしありきたりなきらいがしないでもない。せっかくもらった料理を腐らせてしまう、そこまでベタに後悔を盛り込む事はなかったのではないか。実力はあるのだから、もっと読者の意想を外したものを書いてみても良いのではないか。