『岸辺の旅』湯本香樹実

長い。夫が失踪したあとに突然現れ、しかし彼はもうすでに死んでいて、という非リアリズム。で、妻が、その死んだ夫と共に、夫が失踪した後の道を、遡って旅をしていく。
文章や描かれる情景、そして旅路で出会う人々が特段魅力あるものであれば、長い、という印象がいくらか和らいだかもしれないが、それもない。読みにくい箇所が少ない分最後まで読めただけだ。
夫は、ありえないくらい理想化された優しい夫なのだが、死者であるからしてあたりまえで、その点は寛容であるべきかもしれないが、問題は、このように脳内で優しい夫に仕上げた妻の癒しの気分をこれほど長期にわたって強いられなければいけない点だ。
もっと根本的な点をいえば、勝手に失踪した相手を、こんなにも簡単に優しい人として片付けられる不思議さだ。どんなに外部的な理由があろうと突然相手に何も知らせず失踪するという事は、この夫婦に問題があるわけで。
むろん、そりゃ世の中には失踪癖がある人もいるかもしれないが、であればそこでは共感も薄くなるだろう。鼻水流して相手に怒るほどの、キレイさも汚さも超越した執着もなく、失踪した相手の理由をうんうんと分かってあげる・・・・・・そういうのを優しさと思っていたら、そりゃ関係は続かないだろうね。