『塔の中の女』間宮緑

最後まで読んだ自分をほめてやりたい。
いやもちろん、最後までさしたる瑕疵もなくこの量を書き上げた作者こそ誉められるべきなのだろう。首を傾げたくなる箇所はない。がしかし、読んで夢中になったり気持ちが揺さぶられたりすることも同時に無く、もはや苦行のように感じたりもし、それが却って心地よかったくらいだ。マゾか私は。
とりあえず、いまの私に関わってくるものが希薄であった、ということはいえる。立派にひとつの世界を作り上げてはいるのだが、そしてだからこそ最後まで読めたのだろうが、その世界がいまのこの世界の批評となっているわけでもない。現実のわれわれの最高権力者は、がらくたといえないほどの生々しさを持っているし、現実の官僚機構はこの小説などと比するにもバカらしいくらい複雑にして強固だし、分かりやすい影の権力機構などないし、といった具合。
でその権力を倒すこの小説の物語部分についても面白くもなんともないとして、人物で魅力的なものがあったかというとそれもなく、というかむしろ逆で、「〜の」とか「〜だわ」みたいな古めかしい女言葉を使う主人公の姉がいかにもステレオタイプな「男を振り回す女」然としていて、イライラしたものだ。主人公の幼馴染的男性もいまいちどういうキャラか分からないし。
とそんな小説のなかでも面白く読めたところが皆無というほどでもなく、いちばん面白かったところは、老婆たちがガラクタを洗うところの記述かな。少しユーモアが感じられ、肩の力が抜けるところ。