『ノースリーブ』松田青子

巻末の著者一覧を見る。人を喰ったペンネームかと思いきや「まつだ あおこ」て。この作家の世代は、もう聖子ちゃん明菜ちゃんなんて聞いたことない人が多い世代の人なのかもしれないが、残念というか、内容がしょぼくて、他に書くことがあまりないんだよね。
悪い意味で、笙野作品と対照的。ここにも動物が出てきて、その行動はたしかに思い通りにはならないものの、その思い通りにならなさを勝手に主人公が物語化していて、もはや動物が主人公の人生にとっての道具に成り下がっている。うーむ。
もちろん主人公のありかたのこのひどさを批判的に、もしくは皮肉をもって書けば良いんんだけど、作家はそんな主人公に寄り添うだけ。「今・ここ」を疑わない、なし崩しにしない、そんな小説にどんな意義が・・・、なんて書いても虚しいな。何かの有用性のために小説があるわけでもなし。でもそう書きたくなる。
むろん、「今・ここ」を全く疑わない、その謳歌の徹底が批評性を帯びることだってあるわけだしね。
読み辛さがあまり無いことと、主人公カップルのうわついた、何時の時代も大差ない小市民的幸福ぶりが適度ににじみ出ていること、これらは良かった。少なくとも余計な背伸びはしていない。