『シーリング』C・N・アディーチェ

英米でアフリカから来たひとりの青年として暮らす事と故郷ナイジェリアでのエリート生活との落差を主に描いている。ナイジェリアでいくら恵まれた生活をしていても心にひっかかりを覚える。むき出しの、あまりにむき出しで不公正としか思えない後進国資本主義になかなかついていけないのだ。しかし、そこには同時に人々の不安に満ちたけっして傲慢ではない生活もあって、正義のみに生きることもできない。一般人たちの生き様の前にして、不公正にモノが言えない虚無主義的な態度に陥ってしまうというのは、テーマとして間違いなく文学的課題だろう。
ただ、首長が主人公に取引を勧めた際のナイジェリアの現状を象徴するような面白い話がなければ、少し退屈だったかもしれない。
ところで、記憶が定かではないが、主人公はなんでイギリスから強制送還されたんだろう。ざっと今眺めてみたがよく分からない。そこにもこの主人公の今の憂鬱さの原因の一端がありそうなのだが。