『ピラミッドの憂鬱』楊逸

主人公が、中国から日本に来ている友人の幼児性を笑っていながら、結局自分まで母親とべったりの自立できませんでしたという結末になってしまうのが面白い。党幹部がのさばる賄賂社会と、その一方で、公正さによる裁きの徹底さ。失業問題。そして何より一人っ子政策の子離れ親離れできないという歪み。現代中国の抱える問題の一端が良く出ていて、それだけでこの小説を読む面白さがある。極端に描きすぎてないと思われるかもしれないが、少なくても今もっとも資本主義の矛盾を体現した国のひとつである事には相違なく、かつて「走資派」というレッテル張りが横行した国かよこれが、と何とも感慨深い。
主人公が、自分に近い人間の両親が逮捕されているのにまるで他人事であるかのようなのも、面白い。こういう所などは、極端でもなく実際に近いのではないか。
「水に落ちた犬は叩く」のがセオリーなのだ。しかし、セーフティネットの乏しいところで成立している競争社会は、あり方として間違っているとしか言いようがない。
てなことばかり考えて、小説自体の評価はあまりしていないが、評価は別として不自然な独自表現が減って読みやすくなっている事だけはたしか。